避妊手術は,熟練した獣医師であれば,犬で15〜30分,猫で10〜15分程度の手術時間で出血も極わずかです。これだけ聞くと,すごく簡単な手術と思われがちですが,血管分布の多いお腹の中の一部の臓器をごっそり取り出す手術であり,本当はかなり複雑でそれなりの技術を要する手術なのです。安全かつ確実な手術をスピーディーに行うためには手先の器用さと熟練が必要です。

 避妊手術にはいくつかの術式がありますが,当院では将来的な疾患予防の観点から卵巣子宮全摘出術を行っています。

 以下の写真は,当院における犬と猫の卵巣子宮摘出術の基本術式を示したものです。現在,当院では避妊手術における卵巣子宮摘出には犬猫共に血管シーリングシステム(リガシュアー,Valleylab)を使用した術式を行っています。

★当院における避妊手術の基本術式
 
(症例:雑種猫,雌,6カ月齢,体重3kg)

 
1. 腹部正中の皮膚をメスで数cm縦に切開
 (猫:下腹部,犬:臍後方)
  2. 皮下組織を鈍性分離して腹壁正中(白線)を露出
 (犬では皮下の出血を電気メスで確実に止血する)
 
3. 露出した白線部に新たなメスで小切開を加える
 (猫では筋膜のみ切開,犬では腹膜まで切開)
  4. 白線部の小切開部を鋏で切り広げ切開創を拡大
 
5. 子宮吊り出し鈎で子宮角を牽引しているところ     6. 腹腔外に片側の子宮角を牽引したところ
 
7. 卵巣堤索の部位に鉗子をかけて卵巣堤索と卵巣動静脈を
  まとめて血管シーリングシステムでシールドしているところ
 

8. 反対側の卵巣堤索部のシールド

 
9. 確実にシールドされた卵巣動静脈の様子                 

10. シールド部分を鋏で切離したところ
 (犬ではカッター付きブレードを使用)

 
11. 子宮頸管部分に鉗子をかけて子宮卵巣動静脈ごと
  シールド(犬では左右子宮卵巣動静脈を別々にシールド)
 

12. シールドされた子宮頸管部分を鋏で切断しているところ
  (犬ではカッター付きブレードを使用)

 
13. 卵巣子宮を全摘出したところ  

14. ワンゲンスティーン鑷子で腹腔内にガーゼを挿入し,腹腔内に出血のないことを確認(指先で入れて大動脈圧も確認)

 
15. 腹壁を吸収糸または非吸収糸で縫合
 
  16. 腹壁皮下を吸収糸で埋没縫合
 

17. ステリドレープ(切開ドレープ)を剥がして皮膚縫合
  (不妊手術以外ではクリップ縫合となります)  

 

18. ドレープを取り除いて終了
  (皮下縫合実施により腹帯やエリザベスカラーは不要です)

 

 

★以前の避妊手術の術式
 
(症例:ゴールデンレトリーバー,雌,6カ月齢,体重22kg)
   
1. へその後ろの皮膚を正中に沿って
  数cm切開
  2. 皮膚切開時の出血を電気メスで止血   3. 白線と呼ばれる腹壁の正中を切開し
  て開腹  
   
4. 1.開腹したところ   5. 子宮吊り出し鈎で片側の子宮角を
  腹腔外に牽引
  6. 左右の卵巣堤索と卵巣動静脈を
  結紮して切断(犬では二重結紮)
   
7. 子宮広間膜を電気メスで切開
 
  8. 左右の子宮卵巣動静脈をそれぞれ
  結紮(小型犬や猫では不要)
  9. 子宮頚管中央に結紮糸を縫合針で
  通す
   
10. 子宮頚管の中央に通した結紮糸で
   数重に結紮
  11. 子宮卵巣動静脈をメスでまず切断   12. 鋏で子宮頚管を切断
   
13. 腹腔内の出血のないことを確認   14. 腹壁を吸収糸または非吸収糸で
   縫合
  15. 腹壁縫合が終了したところ
   
16. 皮下組織を吸収糸で縫合
 
  17. 切開創を縫合またはクリップで閉鎖   18. ドレープを除去して終了
上記の犬における避妊手術の写真は,血管シーリングシステム導入前の卵巣子宮摘出術の基本術式を示したものです。 現在は犬の避妊手術においても血管シーリング装置を使用しているため卵巣子宮摘出時に結紮糸は使用しておりません。

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